囚人オイゼビウスの日記

 俺の名前はオイゼビウス。金に困って空き巣に入ったはいいが、変な女にとっつかまって今はリフルシャフル城の牢屋に入れられている。

 暗く、湿気もある狭い牢屋に1人、正直早くここから出たい。いくら飯が出るとはいえ、何も楽しみが無いのはキツイだろ?

 数日もたったある日、俺は日記を書くことにした。ああ鉛筆?隠し持つのは簡単だったさ。時折来る兵士達は珍しいものでも見るかのように俺の動作を眺めているが、特に止める様子もない。だから俺は勝手に書き続ける。


 信じられねぇが、投獄される奴がどんどん増えてくる。俺がいるこの 牢獄に、遂に10人目が入れられた。 もう狭くて気が狂いそうだ。一体何を考えているんだか。

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 昨日、珍しく豪勢な料理が出た。理由は分からないが、まさか処刑されるなんて事は無いよな?


♢ ♢ ♢

 まただ。また豪華な食事が出た。それも一度だけじゃない。朝晩全部だ。正直ありがたいが、訳が分からん。


♢♢♢

 
 理由が分かった。どうやら王女様が俺達の為に食事を出す様に話してくれたらしい。あの王女様は優しい方だと聞いていたが、ここまでお優しい方だとは知らなかった。異端審問官の女も、何かいつもと様子が違うな……何かあったのか?まあ、俺には関係無いが。

♢♢♢


「出ろ。」

『……は?』


 突然、あの女から外に出ろと言われた。まさか処刑かと一瞬覚悟したが、どうやら違う様だった。

 俺と異端審問官の女は何故か2人で雑木林を歩いている。暑くは無いとはいえ、牢屋で過ごしたせいか日光が眩しい。一瞬逃げるか?という選択肢が脳裏をよぎるが、王女様の信頼を裏切る様な不義理はしたくねぇ。俺は黙ったまま雑木林を歩く。不意に、女が口を開いた。

「なぁ……貴様は……。」

♢♢♢

 あの女は女なりに悩みがあるらしい。俺の職歴と盗みの動機を話したら、あからさまに動揺していた。自国の法律の穴すら見抜いていないとは間抜けな女だ。と呆れつつも俺は女の話を黙って聞いていた。こいつにはこいつなりの考えがあり、職務を全うしたいという熱意が空回りしているんだろうな。俺が元いた匠ギルドでも、そういう不器用な若い奴を何人か見た事がある。そのせいか、俺はこの女を以前ほど憎いとは思わなくなっている事に気付いた。

♢♢♢

 「オイゼビウス、釈放だ。」

 『……釈放、だぁ?』

 俺が牢で大人しくしていると、またあの女が俺に一方的に話しかけて来た。釈放。いい響きだ。ようやくこの狭い牢屋から出られる。しかし何故だ?表情に出ていたのか、俺の疑問に答えるかの様に女が答えた。

「なぁ、ここの兵士になる気はないか?」

『……は?』

♢♢♢

 あれから数日が経った。兵士になるという名目で釈放され、兵士としての初日の仕事がこのボロ屋を治せとは……全く、人使いが荒い女だ。

 『馬鹿!ちゃんと腰入れて割れ!斧の重さに負けて腰をやるぞ!!』

 「わ、分かっている!」

 異端審問官の変な女だと思ってはいたが、こうして俺のしごきにも耐えるところを見ると、中々根性が座った女だ。匠ギルドの若い奴らに比べればまた見劣りするが、もっと年数を重ねれば良い大工になるだろう。勿体無いと思いつつも、俺は変な女……エリーナに今日も檄を飛ばした。心なしか離れてみている王女様も嬉しそうな気がした。