ディアヒストリー21

エリーナさんはお父様から与えられた土地の視察に出かけ、しばらく城を留守にしてございます。
いつも騒がしかった私の隣も今ではすっかり静かとなり、無事かつての日常に戻って参りました。
エリーナさんが専属侍女から解かれ少しの寂しさはございますが、久しぶりに侍女たちとお茶をご一緒したく思い
二人の作業部屋へと足を運びました。

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

これは殿下。
わざわざご足労なさるなんて、いかが御用でしょうか?

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。
もし良かったら、久しぶりにお茶をご一緒しませんこと?

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

まあ!殿下とお茶を!?
本当に、ご一緒してもよろしいのでしょうか?

シャッフル王女
シャッフル王女

もちろんです。
……何か作業の途中でして?

目の前の侍女の背後を見ると、白いシーツが数枚入った大きなバスケットが見えました。
その奥では、私が来たことで作業を中断し立ち上がってくださったのでしょう。もう一人の侍女がたたみ途中の衣類をそのままに頭を下げてございました。

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

いえ。すぐにお供いたします。作業はその後で……

シャッフル王女
シャッフル王女

お邪魔するつもりはございませんわ。
終わるまで待っていますから

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

……殿下がそう仰るのでしたら……。
恐れ入ります。すぐに終わらせますので

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。期待していますわ

にっこりと笑みを返した侍女は私を優しく椅子まで導き、しばらく作業部屋の中で二人の手際のよい作業を眺めていました。
ふと視線を上げると、暖炉の上に私の肖像画が飾ってある事に気付きます。

シャッフル王女
シャッフル王女

こんなところに、わたくしの肖像画なんて飾ってあったでしょうか?

その繊細な筆遣いに何かを感じ深く目を奪われます。
私は立ち上がりゆっくりとその肖像画の前まで歩み寄り、侍女たちに聞こえるように問いかけました。

シャッフル王女
シャッフル王女

こちらの肖像画はどなたがお描きになったのでしょうか?

すると一人の侍女が作業の手を止め、私の隣に付き答えました。

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

王妃様でございます

シャッフル王女
シャッフル王女

お母様が……?

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

はい。こちらは4年前に王妃様がお描きになられた殿下の肖像画でございます。
王妃様はよく殿下を連れて、庭園やお部屋で絵を描かれておられました。
……懐かしゅうございますね

そう言われ、私は幼き日の記憶を引き出します。
そこには確かに、私の方へ笑顔を向け、ひたすらに筆を走らせるお母様の姿が映りました。

シャッフル王女
シャッフル王女

……覚えています。
お母様は絵を描くのがとてもお好きで、わたくしもお母様が描く絵が大好きでした

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

近いうちに宮廷画家をお迎えいたしましょう。
今のお美しい殿下のお姿を描き留めて頂き、応接室に飾りたいです

侍女とのやり取りに僅かですが違和感を覚えます。

シャッフル王女
シャッフル王女

宮廷画家を……お迎えする?
どういうことでしょう。お母様は……

シャッフル王女
シャッフル王女

……お母様は、今、どちらに……?

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

え……あ、殿下……。
な、何を仰るかと思えば……

侍女は慌てた様子でもう一人の侍女と目を合わせ困惑しています。

シャッフル王女
シャッフル王女

お母様は、今どちらに?

同じ質問を、先程とは少し声色を変えて投げかけます。
その様子に侍女は恐る恐る答えます。

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

王妃様は、3年前にお亡くなりになられておいでです……

シャッフル王女
シャッフル王女

えっ……?

その瞬間、お母様の葬列の中にいる自身の記憶が蘇って参りました。
皆黒い喪服を身に纏い、青い魔法石を光らせ棺に向かって祈りを捧げています。
確かに記憶の中にある景色です。侍女の仰ることに嘘はないのでしょう。
ですが私には、決定的な記憶が抜け落ちています。
それは……

シャッフル王女
シャッフル王女

お母様は、何故お亡くなりになられたのですか?

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

それ、は……

いよいよ侍女たちが口籠りました。
今にも泣き出しそうな顔の侍女は
もう一人の侍女に目で助けを求めますが、その侍女もとっさに目を逸らしてしまいました。

侍女ヨハンナ
侍女ヨハンナ

ご、ご病気で……

シャッフル王女
シャッフル王女

嘘ですわ。
明らかに、何かを隠してございます……

私は怯えた様子の侍女たちをそのままに、急ぎ書斎に向かいました。







シャッフル王女
シャッフル王女

お父様!!
……い、ない……

書斎の扉を勢いよく開け中に入ったものの、中には誰もいませんでした。
しかし私は何かにとりつかれたかのように、お父様の机、そして書棚を一心不乱に探り出しました。

シャッフル王女
シャッフル王女

何かが歪んでおりますわ。
私の記憶の何かが……

書棚の本を一冊一冊取り出してはめくりそして戻しを繰り返すうちに、とある一冊の本に全く重さがないことに気が付きます。
恐る恐るページを開くと、その本の中は綺麗に四角くくり抜かれ、中に見覚えのない鍵が隠されておりました。

シャッフル王女
シャッフル王女

知らない鍵……
いいえ。知っています。
これは、お母様の部屋の鍵ですわ

次々に記憶が蘇ってきます。
私は鍵だけを抜き取り本を元の位置に戻し、お母様の部屋の鍵をまじまじと見つめ冷静になって考えます。

シャッフル王女
シャッフル王女

何故、今までお母様がいらっしゃらないことについて全く疑問に思わなかったのでしょう。
4年前、あの肖像画を描いて頂いた時のことまでは思い出せます。
ですが、その後の記憶が酷く曖昧に……何故?

私は恐る恐る、行く先をお母様の部屋へと向けました。
書斎の隣はお父様の部屋、そしてその隣がお母様の部屋です。

シャッフル王女
シャッフル王女

お母様がお亡くなりになったと伺ったのに、全く現実感がありません。
確かに葬列にわたくしはおりました。お母様の死を知っていたはずなのに、今の今まで忘れていたと?
……3年前、きっと何かがあったに違いありません。なのに、何故思い出せないのでしょう!?

お母様の部屋の前に立ち、鍵を開け中に入ります。
一番初めに目に飛び込んできたのは、あの牢で見た幻覚の中にあった天蓋付きのベッドです。
部屋の隅には整えられた画材道具、描きかけのカンバスと美しい鏡台、そして小さなテーブルの上に不自然に置かれた書類の束を見つけました。
恐る恐る近づき、その書類を手に取ります。
そこには……

シャッフル王女
シャッフル王女

……倭国友好同盟書……ですって……

その瞬間、黒い鎧兜にランスを突き付けている自分の姿がはっきりと蘇りました。
そう、マリアの店で脳裏に現れた、あの時と同じ黒い鎧兜……。

シャッフル王女
シャッフル王女

存じ上げません……
存じ上げませんわ!こんなことっ……

私は書類を片手で握りしめたまま、ギュッと目を瞑り混乱を抑えます。

シャッフル王女
シャッフル王女

確信しました……。
私の記憶は、誰かに操作されています……

私は言葉に出来ない感情を懸命に抑え込みながら、目の前にある書類の束を睨みます。

シャッフル王女
シャッフル王女

知らなければ……真実を……。
絶対に、記憶の全てを取り戻します!






ディアヒストリー 第2章 終了

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