サブストーリー2

マルスの季節に】


枯れ木も凍る、雪の女王の季節。
比較的穏やかな気候のリフルシャッフル侯国も、
流石に厚手の外套なしでは外を歩くのは厳しい。
悪魔祓い師として各地を転々と放浪してきた私は、
寒さにめっぽう弱い。暑さにも弱い。
芽吹きの精霊の季節と、収穫祭の季節は過ごしやすいが、
悲しいかな、悪魔から呪いを受けたこの身には、
それさえも辛い。具体的には目が痒くなる、鼻水が止まらなくなる、皮膚が痒くなる等だ。
全く、陰湿な悪魔の呪いだ。
『それって悪魔祓う時と魔装具作る時以外はポンコツってこと?』
隣で羊皮紙にペンを走らせていた魔女がにんまり笑う。


こらこら、私の思考を読むでない。
そしてポンコツではない、ポンコツではないはず…。


さておき、だ。
戦神マルスの加護する月なれば、恐らく気候も前回よりは穏やかなはずだ。
という事はファンタジー市に出店する事ができる。


寒いのは苦手なのだ。暖かい方がいいに決まっている。

『そんなに寒さが嫌いなら、いっそリフルシャッフル侯国の城下町に永住しちゃう?』
魔女が囁く。


今我々が仮住まいとしているのはリフルシャッフル侯国、
西のはずれにあるいわゆるオカルト域と呼ばれる地域だ。
未開の地で、見たこともない魔物やら悪魔やらがうようよしている。
故に魔装具を作るのには、材料が豊富でちょうど具合が良いのだ。
それに、この風貌だ。いたづらに住民を怖がらせるのも好ましくない。
一応常識は弁えている、一応。
城下町より風も強く、気温は低く、気候も荒れており、
寒さに弱い私には正直しんどい、が。


『安定なんて求めていたら、つまんないだろ?』
寒いのは苦手だけど、と付け加える。


『確かに!つまんないのは嫌い!』
魔女は三日月のように目を細める。
この魔女、少女のような姿をしているが途方もない時の中を彷徨い続けている。
つまり、まぁ、魔女は見た目に依らないという事。
膨大な時間の中を泳ぎけた彼女達は、
何より退屈を、安寧を嫌う。


故に共に魔物討伐をしているのかもしれない。
私も退屈と安寧は御免なのだ。


(text by medamadara)






【春と呪いの番外編】

今日何度目かわからない盛大なくしゃみの声と、取り落とした工具が落ちる音が工房に反響する。
鼻をすすりながら右手で工具を拾い、左手で机のちり紙を探しているポンコツ…失礼。
哀れな祓魔師の姿を認めて、私はペンを置いて立ち上がった。
この数日の祓魔師はくしゃみして鼻をかんでの繰り返しだったから、
いよいよ急展開を迎えそうな予感にちょっとワクワク…いや、心配なのは本当。
刺激がそろそろ欲しいなってだけで。
ファンタジー市に向けて、今日も祓魔師は大忙しだ。
悪魔の呪いのせいで痒くなる目をこすり、止まらない鼻水をちり紙で拭いながら
今日も槌をトンカン、鼻をズビズバ鳴らして賑やかだ。
なぜこんな呪いなのかは本人にもわからないらしい。
魔女の視点から言わせてもらうと呪いとしてはあまりにも地味過ぎる。
ただの病では?と思った事もあるけれど、
本人が呪いと言い張るものだからそうなんだねと頷いてあげている。
棚の救急箱に手を伸ばしたところで、再びのくしゃみ。
振り返れば舞い上がるちり紙、派手に転がる工具たち。
そして椅子から転げ落ちた祓魔師。
「ほんっと期待を裏切らないなあ、このポンコツ祓魔師!」
擦り傷用の薬を手に取りながらからかうと、
祓魔師が「誰がポンコツだ!」と真面目な顔をした直後、
今日一番の大きなくしゃみ。
おかげで私は久々にお腹が痛くなるほど笑う羽目になったのだった。


(text by HAL)

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