南門が見えてきた。未だ小さく見える門へ向かって、一本道を走り抜けた。
甲冑を身に纏ったシャッフル王女は、ヘルムの隙間から門の周囲を凝視する。
同じく鎧で覆われた愛馬シャルロットを華麗に操り林を抜け、門近隣の村を注意深く見渡した。
良かった。
村の人たちは既に村外へ退避しているようですね……
シャルロットの歩調が一瞬乱れる。
手綱を握る手は自然と力が込められて、心の焦燥がシャルロットへと伝わっているようだった。
次第に近づく南門を前に、シャッフル王女は違和感に気付く。
門の内側に兵の姿はない。代わりにカキン、カチンという剣と剣の交わる音が、門の外側から耳へと入ってきた。
まさか、既に戦闘が!?
門を潜り抜けたその瞬間、目の前の景色に言葉を失い思わずシャルロットを停止させる。
倭国の歩兵10名に対し、近衛兵20名。倍の戦力であるにもかかわらず誰一人としてその剣先を鎧兜へと振り落とすことが出来ずにたじろいでいる。
翻弄される我が軍。その時、遥か彼方に黒馬に騎乗したヒデヤスの姿を確認した。
明らかにこの国の物ではない、見慣れぬ槍を携えたその姿に、あの日の衝撃が蘇る。
あの時の槍……
間違いありません。
あの鎧兜は、ヒデヤス!
長さは恐らく3m。グリップの短い自国のランスと風貌が若干異なり、それは全体のおよそ3分の2をシャフトではなくグリップが占めていた。
あの時、ヒデヤスはわたくしを刃ではなくあのグリップで突き、投げ飛ばした……
とどめを刺さずに去っていったヒデヤス。
あの時の屈辱を思いながら、シャッフル王女は一度シャルロットを門の近くまで戻らせ、石造りの国壁に埋め込まれている『戦闘用のランス』をその手に握った。
長さは同じく3m……絶対に……絶対に負けません!
すると突如として、ヒデヤスが黒馬を操り全速力で走り出した。
っ!!
……いいでしょう。受けて立ちますわ!
合わせてシャッフル王女も白馬を操る。
シャルロットは一度嘶き、ヒデヤスへ向かって駆け出した。
迫る両者。構えるランス。
お互いの切っ先が左肩を捕らえる……そして。
激しい衝撃。響く鋼鉄の衝突音。
宙へと浮いた、ブレストプレートと金の髪。
……そん、な……わたくしが……
かつて、エリーナと交わしたやり取りを思い出す。
『ジョストにおいて負けたことはございませんわ』
このわたくしが……落馬だなんて……!
無上の地が近づく刹那。シャッフル王女はその全身に力を込める。
いけません!
こんなところで、わたくしはっ……
倒れるわけにはいかないのです!
シャッフル王女!!!!
誰かの声が響き渡る。
それは初めて耳にする、勇ましく頼もしい声だった……。
リアルイベント
「下北沢ファンタジー市」
へ続く
END