深い眠りの深淵で、誰かに名を呼ばれ振り返る。
ディアよ……
仄暗い夢の中、振り返ったその先に、金色に輝く獣がいた。
あなたは……グリフォン……
鷲の頭と大きな翼。獅子の身体に大きな鉤爪。
一歩、また一歩と近づいてくるその神獣に、シャッフル王女もまた歩み寄った。
人間の背丈を優に超え、馬よりも大きなその身体。
手を伸ばせば届く距離……。
そこでお互いピタリと止まり、刻の無い空間で見つめ合う。
そなたの祈りは届いていたぞ……
その輝きを待っていた……
グリフォン。
聖なる加護をありがとう存じます
そなたの描く未来を答えよ。
さすれば道は開かれん……
わたくしの……描く未来は……
突如。
グリフォンは光に包まれ姿を消した。
再び暗闇に包まれた空間で、反響した声が響き渡る。
牢へと足を運ぶがいい。
そなたを待つ者がいる……
次第に白んでいく視界。
すると……
っ……夢……?
ぱちぱちと瞬きを繰り返し、一人静かに呟いた。
ふかふかのベッドに、窓から差し込む月の光。
夢と現実をしっかりと確認し、そのままぼーっと静止する。
見慣れたベッドの天蓋に、先程まで見たグリフォンの姿を映し出す。
グリフォン……
何故、わたくしの夢の中に……
ゆっくりと目を閉じ再び眠りの世界へと引き返そうとしたその時……。
っ!そうです……
牢へ行けと啓示を……
時刻は深夜の3時過ぎ。
急いで身支度を整えて、足音を立てぬようこっそり牢へと向かうのだった。
◇
肌を突き刺す石肌の冷気。
燭台を手に石階段を慎重に下る。
牢へと続く石扉を開け、未だ投獄されている二人の罪人の元へ歩み寄った。
一人。エリーナが処刑を迷う大罪人。その男は牢の奥で寝息を立てて、深い眠りについていた。
一人。エリーナが最後まで疑い、解放しなかった黙秘男。しかし何やら様子がおかしい。牢の奥で蹲り倒れ、荒い呼吸で懸命に何かに耐えているようだった。
はぁ、はぁ……うぅっ……あああっ……苦しい……頼む、助けてくれぇ……
大きな声を出せないのか、消え入りそうな詰まった声で、身体を抱えて丸くなる。
明らかな緊急事態を察し、シャッフル王女は声を掛けた。
っ!?
しっかりなさって!
どうなさったのです?
突然の呼びかけに男は戸惑うも、歯を食いしばりながら状況を伝えた。
寒い……それに、頭が痛いんだ……。
熱がひどくて、息が出来ねぇ……
頼む、薬、薬をくれないかぁ……
あああああ……
身体を震わせ発狂寸前の男の様子から、思いつく限りの病状を検索する。
最近急激に冷え込みましたから、きっとお風邪を召したのでは……
お待ちになって。
すぐにお薬を持って参りますから
そう言い残すと、急ぎ侍女の作業部屋へと向かい、厚めの毛布と常備してあった「クリアシード」を数粒取り出し小瓶に詰める。
小さなカップに水を汲み、溢さぬように急ぎ足で牢へと戻った。
さあ、こちらを。
お水は魔法で温めておきましたから、しばらくはこれで辛抱なさって。
明日にはお医者様に診て頂きましょう
シャッフル王女の言葉を聞きながら、男は薬を服用する。
頭から毛布をかぶって縮こまり、温められたカップに両手を添えた。
う……ううぅ……あったけぇ……あったけぇなぁ……
すると男の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
あんたはどうしてそんなに優しいんだい……
罪人である俺に、どうして……ううぅ
いつも無言だった男の、心から溢れ出た感謝の言葉を受け取り、鉄格子越しに語りかける。
貴方に生きていて欲しいからです。
どんな罪を犯そうと、目の前で苦しんでいる我が民を放っておくことなど、わたくしには決して出来ません
うっ……ううぅ……すまねぇ……すまねぇなぁ……
男は声を漏らして涙を流す。
シャッフル王女は優しい目を向け、しばらく傍に寄り添った。
そのすぐ後、男が葛藤した様子で独り言を漏らし始めた。
もう……ダメだ……
これ以上あんたに迷惑はかけられねぇ……
……?
いかがなさいまして?
冷たい床に膝を折り、シャッフル王女は首を傾げる。
未だ毛布にくるまりカップを握りしめる男の口から、次々と衝撃的な内容が語られた。
俺は……この国のもんじゃねぇ。
……倭国のもんなんだ……
っ!?
なん、ですって……
将軍様に、この地の偵察を依頼された忍びのもんだ。
この城に忍び込もうとした瞬間、あの異端審問官に捕らえられたんだ
突然の告白に、驚きのあまり硬直する。
しかしそれはほんの一瞬。夢の中で受けたグリフォンからの啓示の意味を推察し、感情を押し殺し平静を装う。
ドクドクと音を立てる心臓の鼓動。
その息苦しさを悟られぬよう、慎重に言葉を選び男との会話を懸命につないだ。
なぜ、今まで黙っていらしたのですか?
俺が口を割れば、将軍様に殺されてしまうからだ!
俺だけじゃない、家族や、親や兄弟までぇ!
酷く怯えた様子で、男はさらに深く毛布をかぶった。
そんな……
でも、もういいんだ……。
きっともう手遅れだ……。
俺が捕まって1年は経つ。
恐らくもう、俺の家族は……うううぅっ!
片手で自らの目を覆い、身体を震わせて嗚咽をこらえる。
あまりに不憫なその弱った男に、シャッフル王女は悲しみの表情で語りかけた。
希望を捨ててはいけません。
きっとその将軍様は、貴方の帰りを待っているはず……。
無事帰りずっと黙秘していたことを報告すれば、きっと温情を掛けて下さるでしょう
現実とはかけ離れた慰めの言葉に、男は泣きながら呆れて笑った。
はっ……そんな温情、将軍様はお持ちでない……
あんたは将軍様の事を何も知らないからそんなこと言えるんだ……
将軍様は、血も涙もないただの……
悪魔……
そうだ!悪魔だ!
シャッフル王女は思い出す。
かつて見た、あの恐ろしい鎧兜を……。
この者が話す将軍様とは、きっとあの時のヨシノリという男のことでしょう……
なぜ、自らの主をそれほど恐れるのです?
何か理由がおありなので……?
あんたになら話してもいい……。
だがその代わり……
男は深々と首を垂れ土下座した。
頼む!あの将軍、ヨシノリを倒してくれ……
拳を握り、身体を震わせる忍びの男。
その震えは寒さゆでのそれではなく、将軍ヨシノリに対しての恐怖から湧き出たものだった。
そして僅かに額を浮かせた後、これまで見てきた将軍ヨシノリの悪行を、ぼそり、ぼそりと語りだした。
◇
ー倭国・花の御所にてー
その方、酒を持ってまいれ
豪華な衣服に身を包み、あぐらをかいた将軍ヨシノリは新人の侍女にそう伝えた。
畳が敷き詰められた大きな部屋。長方形の部屋の各所に設けられた窪んだ空間には、様々な美術工芸品が飾られている。部屋の上座には酒で気を大きくしたヨシノリが悠々と目の前のつまみに箸を進めるが、それとは対照的に、宴に招かれた家臣たちはまるで葬式でもしているかのような暗い顔で上座のヨシノリから目を逸らしている。右に一列、左に一列。左右の列の家臣同士が向かい合う形で綺麗に整列し正座をしているのだが、正面左右の家臣同士ちらちらと互いを観察し、何をするでもなく沈黙する。
皆の前にはヨシノリと同じく酒とつまみの膳が置かれてはいるが、誰一人として箸を持たない。いや、誰か自分より先に箸を持たないかと、皆一様に待っているようだった。
襖の近くでその様子を見ていた新人の侍女は、突然のヨシノリの問いかけにびくりと肩を動かした。小さく返事をし近づき言われるがまま酒を持つと、慣れない手付きで『将軍様』のお酌を行う。しかし……。
宴にしては重いこの場の空気と、先輩侍女から聞いていたヨシノリ『噂』が頭から離れず、緊張のあまりつい手が震えてしまう……。
するとついに、徳利と酌器が触れ僅かに音を立ててしまった。
そのほう、徳利を使って我をクスクスと笑うというのか
も、申し訳ございません!将軍様
手が滑った、とでも申すのか?
左様でございます、どうかお許しくださいませ
ならば、お主の頭も丸めて滑らせて、反省させようぞ!
◆
そう言って将軍様は侍女の髪の毛を乱暴に掴み、躊躇なく鋏をいれたんだ。
更にはそのまま反省の為だと丸刈りにされた挙げ句、寺へ修行へと出させてしまった
なんて酷い……
そんな些細なことで侍女を城外へ出すなんて、それでは皆恐怖で身動きが取れなくなってしまうでしょう
ああ。全くその通り……
んで、この話には続きがある……
◆
翌週、侍女を送られた寺の住職が御所を訪ねた。
朝餉の最中であったヨシノリは気にする素振りもなく、畳の上にドスンと座って手にした味噌汁を口に運ぶ。
将軍様、先日当院に送られてきた侍女ですが……
ん?そのほう、どうしたのじゃ?
早く修行に就かせるがよかろう
聞く所によれば、本人は悪意は全くないとの事。
初めてのお務めで緊張のあまり、失態を犯してしまった事にございます
ほほう、それがどうしたのじゃ?
決して将軍様を笑ったなどと言うことではございません、ここはどうかお許しいただけないでしょうか
住職のお伺いを聞くや否や、露骨に不機嫌そうな顔をする将軍。
次の瞬間、隣に置かれていた火の入った鍋を掴み、そのまま住職の頭に被せてしまった。
うわあああああ!
我に口出しするバカ坊主め、侍女と平等に反省せい!
◆
……あんまりですわ!
なぜ誰も咎めようとしないのです?
そのような暴君、主としてふさわしくなんてございませんでしょう
将軍様は恐怖で人々を支配する。
咎めた仲間が何人も目の前で酷い目にあっている故、いつしか誰も刃向かえなくなったんだ
……その住職様はご無事なのですか?
ああ。住職は一命を取り留めた。
だがあまりのショックのため、以後言葉を発することが叶わなくなってしまった、舌を切られたとも……
……
シャッフル王女は言葉を失った。
あまりにも安直に、極めて残虐な仕打ちを下すその光景を想像し自然と身体が硬直する。
平和な世界で生きてきたシャッフル王女にとって、それは受け入れ難き人間性だった。
御伽噺、もしくは虚言……。頭の片隅でそのような疑念が一瞬生まれるも、今目の前で震える男が嘘を言う道理はなく、全てが真実であると伝わってくる。
次第に俯き、冷たい石床に視線が落ち始めた様子を知りながら、男は更に懺悔にも似た身の上を重い口調で語り始めた。
俺は倭寇のメンバーとして、西の国へと進行した。
その時に先頭を切っていた俺の親友が進路を誤り、目的の野営地に着けないことがあったんだ……
◆
かたじけのうございます、将軍様!
お主、わざと道を間違えたのであろう
そんな!滅相もございません!
まあまあよいよい。
天は全てをご存知だ。
ここはひとつ、お神に審判を仰ごうではないか……
どれどれ
そういうとヨシノリは馬の荷を漁り、木製の小箱を取り出し蓋を開けた。
いつの間に用意していたのか、小箱の中には小さく折られた紙切れが幾つも入っており、皆一様に「もしやまさか」とどよめいた。
ほんの数秒の沈黙。ついにその中から一枚をつまみ出し、折られた紙を楽しそうに開く。
すると……
なんと!
紙には罪人と書かれてあるぞ!
やはり神は見ておった。
お神が言うのだから仕方がないのぉ……
そうであろう、なあ?皆の者?
仰せの通りでございます
お主は敵方の回し者だったようじゃのう。
我が軍を足止めさせて何か策を講じたに違いなかろうて……
この者を反逆罪で処刑せい!
◆
俺は親友の処刑を命じられたんだが、もちろんそれを躊躇った。
しかし……
◆
お主は何と戦っておる?
敵と戦っているのじゃろう、では目の前にいる此奴も敵
そうじゃ、そうじゃ。
将軍様の言う通りじゃ。
俺たちに余計な手間かけさせやがって!
俺に構うな、皆へ忠義を示せ……。
でなければ今度はお前の番……
◆
結局俺は、将軍の言に味方する仲間や親友からの温情……その他周囲の圧力に負けて、自らの手で友の命を……断っちまったんだ……
なんて惨い……
シャッフル王女は目に涙を浮かべ顔をそむけると、目を閉じ祈りを捧げ始めた。
もちろんこの件以来、俺は倭寇の仲間に疑問を訴えた。
密かに仲間同士で集まり話したが、結局誰も、現状を変えようとはしなかった‥‥‥
◆
処刑をくじ引きで決めるなんて、将軍様は間違っている。
なあ、皆もそう思うだろう?
しっ!お前!なんてこと言うんだ!
将軍様は常に正しいんだ
周りの皆がいつもそう言っているのだから、今回の件も正しいに決まっている
災難だったとは思うが、間違えれば疑われても仕方がない。
この件もすぐに忘れた方が身のためだ
ま、そういうことだな
お前、変な気を起こすんじゃねぇぞ。俺たちまで巻き込まれたら御免だからな
◆
倭国には、そういう事がまかり通っちまう特殊な文化が根付いている。
いつどこで誰が見ているか分からないから、誰も本音で語れない。
かく言う俺も結局今まで、将軍様を恐れ黙秘を通した身なんだが
我が国とは全く真逆……。
個人の意思を封じ全体を統治するなんて……
昔はこれほどまで酷くはなかったんだ……
あの将軍、ヨシノリが帝の遣いに選ばれてから、色々と国はおかしくなった
ええ……。
私が伺っていた倭国のお話とは随分違います。
匠に優れ自然に溢れ、兵や民の団結力が素晴らしいお国だと……
平等と平穏が約束された、本来は誇れる国なんだ、俺の国は……。
だから頼む……
憎むべきあの将軍ヨシノリを倒し、俺たちをこの地獄から助けてくれぇ!
男は再度土下座した。
友は不本意に裏切り者にされた、だが!
俺は自分の意志で将軍を裏切って、アンタたちにお願いする!
たのむ、友を成仏させてくれ!
シャッフル王女は表情を硬くし立ち上がり、新たな決意を滲ませる。
内に秘めるは男への同情か、憐みか、それとも怒りか。未だ説明不能な感情を胸に、自国に住まう人々の笑顔と、あの会談の様子がフラッシュバックする。
何も知らずに、倭国との友好を信じて疑わなかった幼き当時の未熟な自分。
そんな自分自身を心から恥じ、今改めて自らの使命を言葉に込めた。
我が国は個人の意思と、個人の自由を重んじます。
もとより倭国と我が国は、相反する国のようです
期待していた言葉には程遠い、敵対を滲ませる言葉の数々。
その声色は誰かへ向けての悲しみと、誰かへ向けての怒りと、そして誰かへ向けての強い意志を孕んでいるものだった。
言葉の重さが背中へとのしかかる。男は土下座を続けたまま、今目の前に立っているであろう異国の王女の表情を探す。しかし、いくら自らの脳内を探っても、その声色と一致する表情を見つけ出すことが出来なかった。
先程までただのお嬢様、もしくはお姫様だと思っていた美しい女。だが今感じているこの緊張は、まごうことなき王女への畏怖。
男は体を強張らせたまま、無意識に息を止め次の言葉を待ちわびていた。
倭国に攻め入ろうとは思いません。
ですが……
シャッフル王女は男を見下ろし、険しい表情で声を掛けた。
もしもあの将軍……
ジェネラル・ヨシノリの兵が我が国へ攻め入ろうとするのなら、その時はわたくしの全てを掛けて、我が民の自由を守ります
男は僅かに額を上げた。
貴方の勇敢なる決意に敬意を表します。
ですが、倭国を許すことは出来ぬこと。
もちろん、倭人も誰一人……
……
時が満ちるのをお待ちなさい。
貴方の処遇は、エリーナさんにより下されるでしょう
床に置いた燭台に手を伸ばす。
額を再度こすりつける男を憐れみながらも、シャッフル王女は歩き出した。
決して揺らぐことの無い、しっかりとして足取りで……。
しかし遠のく足音を追いかけるが如く、男が突如体を起こして鉄格子を掴んみ叫んだ。
一つ忠告させてくれ!
……?
シャッフル王女はピタリと歩みを止め、僅かに振り向き言葉を待った。
俺たちはどんな苦境にも恐怖にも、持ち前の意地で乗り越えてきた。
……気を付けるんだ……くれぐれも、話し合いで解決できるなんて思わない方がいい……
懸命な男の忠告に、心の中でクスリと笑う。なぜなら脳裏には、険しい顔をして自分を睨む一人の女性が浮かび上がっていたからだ。
すぐさま景色を今に戻し、鉄格子から必死に身を乗り出す倭国の男を静かに見据える。
そして意味ありげな微笑みを向け、少し呆れたように言葉を返した。
ご安心ください。
意地っ張りさんの取り扱いには、十分慣れておりますのよ
そのまま二度と振り向かず、前を向き牢を後にした。
自らの足音を冷たい石壁に反響させながら、ただひたすらに地上を目指す。
持ち出した牢の外鍵でしっかりと地下への入り口に鍵をかけると、大きく深呼吸をし空を仰ぐ。
白みだす空を歩きながら見つめ、王妃の部屋で読んだ倭国友好同盟書兼「倭理友好条約書」の内容を思い出した。
一、貴国は倭国に対し、年一度以上の朝貢をされたし。
一、倭国民へは倭国の法律を適用させること。
一、商取引を平等なものとし、倭国からの輸入に対し課税しないこと。
一、信仰を平等なものとし、布教活動を認めること。
一、犯罪、紛争については平等の原則に従い、個人の意志よりも全体の意志を優先させること。
一、倭国民、貴国民を階級や身分に関係なく、平等な市民として扱うこと。
一、倭国民に土地を与え、平等な民として扱うこと。
一、個人の自由よりも、全体の利益を優先させるよう取り計らうこと。
このような条約、決して許してはなりません。
もし許せば我が国は、倭国の操り人形となってしまうでしょう
まだまだ情報が足りない。もっとよく知らなければならない。
あの日の自分がもっと強い人間だったら、こんなに時間を無駄にしなかったのに……。
自分が生きる現実と、真に民の事を思えていたなら、父と共に何か対策を話し合えていたかもしれないのに……。
そんな後悔が次々と脳裏に沸き起こるが、目を閉じ暗闇へ葬り去る。
いいえ。きっとまだ間に合うはず。
必ず、わたくしがこの国を守ります
未だ目的がはっきりと見えない未知の国を思い、想いと意志を一つに束ねる。
進む足取りは力強く、しっかりと前を見定め歩く。
白んだ空は更に明るく、そして空気が輝きだす。
酷く透明な太陽の光が、金色の長髪が揺れる背中を照らし出した事に気付いたシャッフル王女はふと、光の射す方へと視線を向けた。
碧の瞳と、金色の髪……。
純潔の光に照らされたその姿は、今まさに磨き上げられたダイヤモンドのように輝いていた。
ディアヒストリー28 終了