ディアヒストリー29


シャッフル王女は皆で朝食を済ませた後、ダイニングから立ち去ろうとする領主とエリーナを呼び止めて応接室に集まるよう声を掛けた。

いつもとは違う声色、そしていつもとは違う瞳の輝きに、二人は何かを感じ取りすぐに了解を返答する。
領主は「先に行っててくれ」と一度自らの書斎に向かい、エリーナはそのままシャッフル王女の後を追った。


応接室。一度書斎に向かっていた領主は5分も経たぬ内に応接室へと姿を現し、皆が揃ったところで着席する。
2人の視線を集めたシャッフル王女は、初めに急な招集の謝罪と感謝を述べた。
そしてすぐに本題へ。2人を応接室に集めた理由はもちろん、数時間前に牢の男から聞いた倭国の情報の共有だ。
シャッフル王女は倭国のうわべの情報と実態の情報、そしてヨシノリの常軌を逸した人間性について語り始める。
そう、あの事件が起きた、この応接室で……。


数分後。円卓を囲む部屋の中。二人はいつにも増して凛々しいシャッフル王女のその姿と、曇りのない瞳で自分たちを見据える美しい眼差しに圧倒される。
そして人を引き込む語り口調に、息を呑み真剣に聞き入った。
領主は両肘をテーブルにつき
指を組み目を閉じながら話を聞き、エリーナは姿勢よく椅子に腰かけつつも、話が終盤にさしかかるにつれて次第に顔が俯いていった。
信じられない情報の数々に空気は顕著に重くなる。
シャッフル王女がすべてを話した直後などは言わずもがな、誰も言葉を発せなかった。

領主
領主

……まさか。あの囚人が倭国の者だったとはな……

沈黙を破ったのは領主だった。
それに続き、エリーナも自らが捕らえた罪人の正体を知り同意の言葉を口にする。

エリーナ
エリーナ

……はい。
私も正直、驚いています

領主
領主

しっかり役目を果たしているではないかエリーナ。
満足であろう

エリーナ
エリーナ

……

沈黙するエリーナ。テーブルの一点を見つめながら押し黙り、複雑な表情で硬直した。
素直に成果を喜べるほど、状況は楽観したものでは決してない。
恐らく、先の領主の口ぶりからするとエリーナの罪を知っているのだろう。純粋なる誉め言葉なのか皮肉なのか、当の本人はよく分かっていないようだった。
その様子を横目にし、シャッフル王女は話を被せる。

シャッフル王女
シャッフル王女

お父様の真意こそ理解しかねます。
このように倭国が密偵を送り込んでいるような状況で、よくもあれほど城を留守にし、他国へと遊び惚けていられましたね

領主
領主

ふっ。
この私が本当に、ただ遊び惚けていただけだとお思いかね、ディアよ

領主は薄ら笑いながらシャッフル王女を見つめ返した。

シャッフル王女
シャッフル王女

え……?

領主
領主

やれやれ。
我が娘にまで真のお気楽者だと思われては……
少々心外だな

領主はわざとらしく肩をすくめ、少し残念そうに、しかし想像通りという表情で一度目を閉じた。

シャッフル王女
シャッフル王女

お父様。
倭国について、何かご存知なのですか?

領主
領主

……いかにも

そういうと領主は懐から地図を取り出し、円卓の中央にサッと広げる。

領主
領主

ここ1、2年の間、反倭国の諸外国を見極め、密かに交渉を続けてきた。
無論。倭国に対抗する為の兵力の確保と、情報収集を行うためだ

シャッフル王女
シャッフル王女

そう、だったのですか……

領主
領主

現在倭国の軍は、この辺りにいるようだ

領主はスッと、リフルシャッフル侯国の南側の国々を指さした。

シャッフル王女
シャッフル王女

もう、こんなところまで……

領主
領主

様々な情報を集めた結果、ヨシノリの本当の狙いも見えてきた

シャッフル王女
シャッフル王女

ジェネラル・ヨシノリの、本当の狙い……?

領主
領主

ああ、こんな話がある

領主は真剣な表情でこちらを見る若い二人に対し、言葉を探しながら説明していった。

領主
領主

闘鶏、というものをご存知かね?

二人は一度顔を合わせ同時に首を横に振った。

領主
領主

文字通り、鶏を闘わせて楽しむ娯楽だ。
ヨシノリはこの娯楽を流行らせることに成功した

エリーナ
エリーナ

ん?一体なんの話ですか?

領主
領主

まあ聞けエリーナよ。
倭国では、『流行を追わぬものは異端』としてみなされる。
そしてヨシノリはその心理を利用して、民の人心を思うがままに操っているのだ

シャッフル王女
シャッフル王女

流行りなど……自然と生まれるものでございましょう?
一体どうやってそのような事を……

領主
領主

うむ。

まず、実際に流行っていなくとも、『流行っている』と下々に説くそうだ。

すると自然に参加者が増え、やがて人々は勝手に『お前はまだ闘鶏をやっていないのか』と互いに問い詰め、監視し始める

エリーナ
エリーナ

なんて愚かな。
そんな出所のしれぬ流行に乗って、一体何が楽しいのだ

領主
領主

倭国は帝が統治する地だ。
『帝の言』という事にしてしまえば、人々は疑うことなくそれに準ずる。
貴下のように疑ってばかりも問題だが、何も疑わないのもそれはそれで問題だな

エリーナは一瞬顔をしかめるも、敢えて無視して腕を組んだ。

シャッフル王女
シャッフル王女

しかしお父様……
やはり本意が見えません。
ヨシノリは闘鶏を流行らせて、一体何がしたいのでしょうか?

シャッフル王女の質問に、領主はテーブルに腕を置き答える。

領主
領主

ジェネラル・ヨシノリの狙いは、鶏価格の高騰だ

シャッフル王女
シャッフル王女

え?

領主
領主

仕組みはこうだ。
闘鶏で勝った鶏は、高値で取引されていく。
しかしこの取引を行うには、ヨシノリが運営する国営闘鶏道場を使わないとならない。
公正な取引場所を提供するという名目で、利益の幾分かがヨシノリの懐に入っていくという訳なのだが……

シャッフル王女
シャッフル王女

勝っても負けてもニワトリのどちらかに高値が付き、ヨシノリに自動的にお金が入る仕組みというわけですね

領主
領主

流石はディアだ。よくぞ見抜いた

シャッフル王女
シャッフル王女

ありがとう存じます

エリーナ
エリーナ

しかし領主様。
それだけ流行っているのであれば、各所で野良試合も行われましょう。
国営闘鶏道場以外で行われる取引が、必ずあると予想します

領主
領主

うむ。
国営闘鶏道場意外で行われる取引は『ヤミ市』と呼ばれるらしい。
勝手に鶏を取引されないよう、今度は民衆に『ヤミ市行為は非常識』と説く。
するとこれまた自動的に、民自身が民を取り締まる状況が作られるのだ

エリーナ
エリーナ

信じられない……
そこまでして仲間を監視し合って、一体何になるというんだ……

領主
領主

……ヨシノリは、ヤミ市への密告者を「特別功労者」として讃え、盛大な表彰式を執り行うそうだ。
もちろん賞金は、闘鶏で得た例の金だ

エリーナ
エリーナ

それを目当てに、監視し合うのか……。
そんな制度一歩間違えば、嘘の報告も有り得るのでは……

領主
領主

その一方で違反者を厳しく取締り、3度違反したものを「市中引き回しの刑」と称し、罪状を首から下げ1週間に渡り街中を歩かせる。
その上罪人の家族にも、街の清掃や汚物の処理などの刑罰を与えるそうだ

シャッフル王女
シャッフル王女

無関係の家族にまで罰則を……

領主
領主

恐怖政治とは正にこのこと。
その他、重罪を犯した者やヨシノリに叛意を抱く者の首を撥ね、その首を1週間に渡り晒し者にする……
いやはや、恐ろしくて言葉もないわ

シャッフル王女
シャッフル王女

互いが互いに監視し合い、植え付けられた常識の中で生きていく……
倭国の皆様は、それで本当に幸せなのでしょうか?

エリーナ
エリーナ

……深くを知らなければ、幸せでいられるものなんです。
流れに身を任せてしまえば、少なくとも思考の苦しみからは逃れられる。
……かつての私が、そうでしたから

領主
領主

まとめるとこうだ。
平等意識を植え付け、国民同士を相互監視する社会を形成した上で、連帯責任で罪を償う方式を取る。
さすればいずれ国民の意識下には『世間様の顔色を伺う』『家族に迷惑がかかる』など、全体主義支配を可能にする土壌が形成されていくとことなる

シャッフル王女
シャッフル王女

我が国にも、この仕組みを持ち込もうとしていたわけですね

領主
領主

左様だ。
自ら手を下さぬとも民を操り、軍資金を潤沢に確保する。
後は流行ったモノ、コトをヨシノリの都合の良いように入れ替えれば……
これで命令などせずに自然と自分の思うように民が動くようになるのだよ

シャッフル王女
シャッフル王女

恐ろしいですわ……

領主
領主

会談で話していた通り、我が国の魔法に興味があるのは間違いない。
魔法の原理を解明し、自国へと輸入するつもりなのだろうが、恐らくこれにも裏があるだろう

エリーナ
エリーナ

魔法石や魔獣が倭国に渡ったら、それこそそれを持ち込んだヨシノリを神と崇める者も出てきそうです

領主
領主

うむ。
……ヨシノリは想像以上の切れ者だ。
民の不安を募らせぬよう、ただひたすらに平等を説いている。
全く……人が人を裁くさまを見て楽しむなど非道の極み

シャッフル王女
シャッフル王女

決して迎え入れてはなりません

領主
領主

ディア。覚えておるか?
倭理友好条約書に『貴国は倭国に対し、年一度以上の朝貢をされたし』という一文があったことを

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ

領主
領主

朝貢とは、倭国の帝、即ち王に、貢物をすることをいう。
ヨシノリは諸外国に圧力外交を行い、朝貢させた金品を帝に送らず横領している

エリーナ
エリーナ

そんなこと……
すぐに倭の王に知れてしまうのでは……

領主
領主

それが、だな……。
ヨシノリが行っている諸外国への圧力外交は、王に無断で行っている事のようなのだ

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ!?そんなことって……

領主
領主

ヨシノリは倭寇と呼ばれる武士団を作り大陸へ進行する。
そしてその確固たる目的は、帝の管理が及ばない、独裁による恐怖政治を行える土壌を形成することだ

シャッフル王女
シャッフル王女

恐怖政治の土壌……

領主
領主

実際に、ヨシノリに牛耳られた土地がある。
ヨシノリはニンジャと呼ばれる特殊部隊を結成し、その国を事細かに監視する。
帝は『神の使いだから』全てをお見通しだと言を吐き、実際はニンジャを使って反対する者を見つけては粛清、見せしめの為のさらし首としているそうだ

エリーナ
エリーナ

自らの王に責任を押し付け、自分は正義を気取るとは……

シャッフル王女
シャッフル王女

お父様……
一つだけどうしても、腑に落ちない点がございます

領主
領主

ん?なんだね

シャッフル王女
シャッフル王女

どうしてヨシノリの一団は、一度我が国から退いたのでしょうか……?

エリーナ
エリーナ

確かに。
私が言えた立場ではないが、あのままこの城を墜としてしまえば、恐怖政治などあっという間に出来ただろうに

領主
領主

うむ。肩慣らしとはよく言ったもの。
恐らくは、我が国がどの国とつながりが深いのか、これらをこの3年ほどで見極めていたのだろう。
いくらヨシノリが切れ者でも、下手をすれば周辺諸国から奇襲を掛けられてもおかしくない。
特に倭国には魔法がないのだ。故に慎重になったのかもしれん

エリーナ
エリーナ

……あの、領主様。
あの妖術師の女について、何か情報はないのでしょうか?

領主
領主

うむ。
それについては不思議なことに、殆ど情報が集まらないのだよ。
この辺りは、貴下の筋の方が詳しいであろう

エリーナ
エリーナ

そうですか……

領主はすっくと立ち上がり、シャッフル王女をじっと見据えた。

領主
領主

ディア。
近く我が国は、倭国と戦争をすることになるだろう

シャッフル王女
シャッフル王女

……はい

領主は更に険しい表情で言葉を続けた。

領主
領主

貴下の覚悟を問う

シャッフル王女
シャッフル王女

っ……

シャッフル王女は強い眼差しで領主を見返した後、ゆっくりと立ち上がって息を吸った。
ほんの一瞬、領主の後ろに夢で見たグリフォンの姿が浮かび上がる。

シャッフル王女
シャッフル王女

あの時言えなかったわたくしの意志。
共に聞いていてくださいませ

シャッフル王女
シャッフル王女

わたくしの描く未来は……。
皆が自分の道を見失うことなく、自分らしく生きられる……
そう、個性と希望に満ち溢れた未来です

エリーナ
エリーナ

自分らしく、生きられる国……

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。
誰もが、その心の深層より見つけた『夢』を、隠さず素直に語り合うことが出来る国へ。
そしてわたくしは、その夢の種をしっかりと植えられる佳き土を管理致します

エリーナ
エリーナ

夢……

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。エリーナさん。
大切なのは、本当の自分をよく理解して差し上げる事。
至らぬ点は鏡となって、反面教師を連れてくる。
秀でた点は道となって、多くの人が辿る標となる。
その道理を心から理解し、賢者の知識を素直に受け取ることが出来たのならば……

エリーナ
エリーナ

その人の夢は実を結び、得られた自由を使いこなすことが出来る……

シャッフル王女
シャッフル王女

左様でございます。
光で満ちた新しい道を、自分らしい生き方で……

エリーナは館でのやり取りを思い出していた。

ザイン
ザイン

『知識のないものに自由は使いこなせない』

ザイン
ザイン

『本当に君って勿体ないよ。
素質はあるのに知識どころか経験も足りてない。
もっと視野を広げて世界を見なよ。
それから自分の心の中の、もっと、もっと深いところもさ……』

エリーナ
エリーナ

そうか……こういう、ことだったんだ

シャッフル王女
シャッフル王女

倭国の道が統制ならば、わたくしは個の自由を掲げます。
目指す未来が違う者と、友好条約を結ぶつもりはございません。
互いに干渉せず、ただそれぞれがそれぞれの道を歩めばよろしいだけの事

無言の領主に再度視線を集中させ、息を整え言葉を続けた。

シャッフル王女
シャッフル王女

ですがお父様。
もし倭国が、わたくしの未来を塗り替えようと過剰に干渉してくるのであれば……
その時は

一度言葉を閉ざし、覚悟を決めて宣言する。

シャッフル王女
シャッフル王女

その時は、わたくしは恐れず立ち向かいます!

領主
領主

うむ!良いであろう

領主は満足そうに瞳を閉じ、帯剣していた剣を抜き取った。
右掌にグリップ、左掌に剣先を乗せ、寝かせた状態の剣を静かにシャッフル王女の前に差し出す。

領主
領主

これを貴下に

不思議そうに視線を落としたシャッフル王女が目にしたのは、剣身の根元に光るリフルシャッフル侯国の刻印。
それは統治権継承の証である「アルマスソード」だった。

シャッフル王女
シャッフル王女

っ!?お父様!これは……

領主
領主

輝くダイヤモンドをその名に持つ、我が愛娘ディアマンテよ。
本日只今より、貴下を正式な国家元首と認め、国の全権力を一任するものとする

エリーナ
エリーナ

え!?領主様!
い、いきなり何を……

驚き立ち上がったエリーナを、領主は予想していたかのように嗜めた。

領主
領主

口を慎め。
そして、貴下がこの場の証人となるのだ

エリーナ
エリーナ

っ……!!

領主
領主

ディアよ。
私は先代よりの伝統を覆し、『好きな姓を名乗る』事を良しとした。
よってこの国の名全てを自分の名には継がず、私は私として生きてきたのだ。
それは私の先代への反抗心からなるものでもあったがそれだけではない。
もとより私ではなく貴下に、この地を真に統べて欲しいと願っていたからなのだ

シャッフル王女
シャッフル王女

わたくしが、国家元首

領主
領主

そうだ、代理ではなく、正式なる国家元首だ

突然の継承の儀に、シャッフル王女は未だ目を丸くし驚きを隠せない。
その様子を見た領主は、優しく道を示していった。

領主
領主

我が国が置かれている立場、近隣諸国の情勢、そしてリフルシャッフル侯国の内部情勢……
貴下は全て理解しているな?

シャッフル王女
シャッフル王女

はい。
お父様の変わりに、わたくしが全て公務をこなしておりましたから

領主
領主

左様だ。
加えて言えば、リフルシャッフル侯国の民の信頼は既に、私ではなく全て貴下に向いている

シャッフル王女
シャッフル王女

有りがたき事と存じます……

領主
領主

今回の倭国との戦に備え、各国と交渉してきたのは確かに私だが、リフルシャッフル侯国に軍の派遣や馬の手配をして下さった貴族の方々は皆口を揃えて言っていたぞ。
『ディアマンテ嬢の未来の為に』と……

シャッフル王女
シャッフル王女

なんて……もったいなきお言葉……

感涙に満ちたその表情で、目に涙を浮かべて感謝する。

シャッフル王女
シャッフル王女

わたくしは、歩まねばなりません。
皆が信じるわたくしの未来と、皆の笑顔を守る為に……

静かに、そしてしっかりとした意志を乗せて、領主の手から「宝剣」を受け取った。

シャッフル王女
シャッフル王女

お任せください。
リフルシャッフル侯国は、わたくしが責任をもって導きます

領主
領主

頼んだぞ……

確かな眼差しで、その未来を映し合った両者。
この瞬間をどれだけ待ち望んだことか、領主はいつまでもその目を逸らすことをしなかった。

シャッフル王女
シャッフル王女

お父様がよく城を留守にされるのも、公務をわたくしにさせるのも、街への外出に何の制限も掛けなかったのも……
全て、この時の……
今の、わたくしの為……

静かに目を閉じ、思い返す。
これまでの父の全ての事を……。
その存在の大きさが、改めてシャッフル王女の胸を打つ。

シャッフル王女
シャッフル王女

ありがとう……お父様……

すると、瞼の裏に映し出された父の面影の向こう側から、小さな拍手が聞こえてきた。
咄嗟に目を開けその音の方へと視線を向けると、柔らかい笑顔で自分を見つめるエリーナの姿が目に入った。

エリーナ
エリーナ

お祝い申し上げます。陛下……

シャッフル王女
シャッフル王女

エリーナさん……

エリーナはシャッフル王女の前に跪いた。

エリーナ
エリーナ

素晴らしい瞬間に立ち会えましたこと、本当に、光栄でございます

シャッフル王女
シャッフル王女

ありがとう存じます

エリーナ
エリーナ

私は光を生み出せない。
ですが陛下は、眩しい程の美しい光を『未来』や『人の心の中』に生み出すことが出来る。
……それは誰もが出来る事じゃない。
陛下にしかできない事です

シャッフル王女
シャッフル王女

もったいなきお言葉です

エリーナ
エリーナ

……そう、私は光を生み出せない。
ならばせめて……

エリーナは顔を上げ、シャッフル王女を見つめて言った。

エリーナ
エリーナ

陛下の後ろにできる『影』は、全て私が引き受けます

シャッフル王女
シャッフル王女

エリーナさん……

エリーナの決意に満ちた瞳が、手に持つ宝剣に反射する。
シャッフル王女は宝剣を片手に持ち直すと、左手をエリーナの肩へ這わせ優しく導き立ち上がらせた。

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。
……信じています。エリーナさん。
……わたくしがいずれ作り出してしまう影の世界……。
私の目の届かぬ暗闇の世界にも、貴女が必ず、わたくしの光を『届けて』下さることを……

エリーナ
エリーナ

お任せください。
ですからその輝く意志を、臆せず信じ貫いて下さい

エリーナはシャッフル王女の手を取った。
二人はしっかりと互いを見つめ、未来の景色を想い通じ合う。

エリーナ
エリーナ

私はいつも、陛下のお傍に

シャッフル王女
シャッフル王女

ありがとう、存じます。
エリーナさん

その時だった。
激しく開き閉じる扉の音が、エントランスの方から聞こえてきたのだ。
同時に誰かの足音が、ものすごいスピードで近づいてきたかと思うと、次の瞬間には応接室の扉が勢いよく開かれたのだった。

近衛兵
近衛兵

大変です!
南門の外に!
あ、あ、あの時と、同じ……
倭国の軍勢が!!

領主
領主

なに!?

飛び込んできたのは血相を変えた近衛兵だった。
領主は眉間に皴を寄せ、すぐに近衛兵へと詰め寄った。

領主
領主

詳しく伝えよ

近衛兵
近衛兵

は、はい!
南門の外に、騎乗し槍を持った鎧武者が一人と、歩兵とみられる鎧武者が約10名程!

領主
領主

槍使いだと!?

シャッフル王女
シャッフル王女

っ!きっと、ヒデヤスですわ

近衛兵
近衛兵

南門の遥か彼方より近づいてくるのが見えた為、現在兵を南門へと集結させてございます

領主
領主

全てを南門へ集結させるのはまずい

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。
もしかしたら南門の軍は囮かもしれません

近衛兵
近衛兵

い、い、いかがなさいましょうか!?

近衛兵は息を切らしながら指示を仰ぐ。
領主はシャッフル王女へ目配せし、全ての指示を一任した。

シャッフル王女
シャッフル王女

かしこまりました。
同じ槍使い……ヒデヤスはわたくしがお相手いたします。
南門へは兵を20名。
残りの兵は各門へそれぞれ配置してください

近衛兵
近衛兵

りょ、了解しました!

シャッフル王女
シャッフル王女

エリーナさんは兵と共に。
兵の適材適所への配置と指示、そして怪しいと思う門へと赴き動向を探ってくださいませ

エリーナ
エリーナ

了解しました

領主
領主

エリーナ。馬は乗れるな?
私の馬を使うが良い

エリーナ
エリーナ

ありがとうございます

領主
領主

くっ。
手配した隣国の軍と馬は明後日の到着予定……
先手を打たれたか……

エリーナ
エリーナ

しかし異様に数が少ない。
恐らく先遣隊でしょう

シャッフル王女
シャッフル王女

ええ。
……お父様。行ってまいります

領主
領主

ああ。健闘を祈る

こうしてシャッフル王女は、領主より宝剣の鞘を受け取り刃を納めた。
それぞれが各配置へと散開し、シャッフル王女は馬小屋へと急ぐ。
そして侍女の手を借りながら急ぎ甲冑を身に纏い、愛馬シャルロットに跨り南門へと走り出した。





ディアヒストリー29 終了