
将軍ヨシノリの邸宅「花の御所」にて、将軍や将軍の部下たちの身の回りの世話や給仕などを行う新人侍女。17歳。
木綿で出来た梅色の小袖着物を身に纏い、黒く長い髪を後ろで一つに結び腰近くまで垂らしている。
まだ作法もままならない新人で、先輩侍女たちの後をついて仕事をこなす毎日を過ごしていたが、ある時、「宴」への同席者を決める話し合いが小さく開かれた。
が、先輩侍女たちは皆顔を見合わせて、恐る恐るに意見を述べる。
「わ、私はもう、何度も出席しているので……」
「私も、他の方へお譲りいたします」
「いえいえ! 失礼のないよう、ここは経験者の方が……」
「そんな! さすがにそろそろ、未経験者に……」
各々が譲り合い、出席を避け、それらしい理由を述べていく中、最終的に視線を向けられたのは新人侍女だった。
「え……? あ、あの……はい……。わたしで、良ければ……」
先輩侍女からの圧力に逆らえず、つい出席を申し出てしまうが、新人侍女は未だ将軍ヨシノリと相対したことはない。
新人侍女の返答を聞いて、先輩侍女たちはほっとした表情を浮かべると同時に、異様に優しく声を掛けた。
「大丈夫大丈夫!失敗さえしなければ、何もないから」
「そうそう!失礼な事さえしなければ、絶対大丈夫」
「お作法は教えてあげるから! 頑張って!」
その後、将軍ヨシノリへの礼儀作法を懸命に学ぶ新人侍女であったが、宴の前日、先輩侍女たちから恐ろしい話を耳にすることとなる。
「将軍様は、気に入らないことがあるとすぐにお怒りになるわ」
「これまで侍女は20人いたのだけれど、今は5人……。皆どこかへ消えてしまったのよ」
「罰を受けたと聞くのだけれど、もしかしたら……処刑されたんじゃないかって……」
「あまりアナタを怖がらせたくはないのだけれど、本当に、失礼のないように気を付けてね。もしかしたら、罰を与えられるかもしれないから……」
こうして、新人侍女は未知の存在である「将軍ヨシノリ」の宴へと同席することとなる。
願わくば、将軍ヨシノリの視界に入りませんようにと、息をひそめて……。