サブストーリー6

【黒き騎士の肖像】

四大精霊サラマンダーの力が強まる季節。
リフルシャッフル侯国の大広場を行き交う人々や商人たちの額には大粒の汗が伝っている。
…のだが、
そこに突如現れたのは全身を漆黒で固めた黒衣の騎士。
灼熱の大陽が降り注ぐ中、妖しげに光る甲冑、
外套がふわりと風に翻るが、太陽すら透けることのないしっかりとした素材である事が見受けられた。
ヘルムからは紅い瞳が真っ直ぐこちらを見ているような錯覚を起こす。

今日は月に1度のファンタジー市。
闘技場にでも腕試しに来たのであろうか。
異彩を放つ漆黒の騎士は、動く度にガチャリガチャリと、
重厚な音を立てながらこちらに向かって歩いてきた。

『祓魔師さん〜!』
ヘルム越しに聞こえたのは、よく聞き慣れた馴染みの騎士の声である。
『あっ、ヤマイ卿ではないですか!』
以前にも私の魔道具を購入し、闘技場で大活躍していた馴染みの騎士であった。
『今日は良いものがあるのですよ〜』
とヤマイ卿。
すると出てきたのは、首当てと肩鎧であった。

『魔女さんいるかなと思って持ってきたのですが、
いらっしゃらなかったので、祓魔師さんがもしよかったら、試着とか如何ですか?』
なんと我が魔女の為に、ヤマイ卿自慢の甲冑コレクションから一部を持ってきて下さっていたのだ。
『えええ?!!いいんですか?!!』
私の心は光が差し込むが如くパァッと明るくなる。
祓魔師は基本接近戦闘が少なく、また魔女のサポートもあって、戦闘中でも防具をつけるという概念があまりないので、本格的な甲冑というのは、実のところ縁遠かったのである。
勇猛な騎士の姿が憧れの的であるのは、いうまでもない。
そうしてヤマイ卿からお借りした甲冑を身につけ、その日1日はニコニコで過ごしたのだった。

ファンタジー市から帰宅後、
魔女にとんでもなく羨ましがられ、拗ねられたので、
『ヤマイ卿、小型の魔獣にめっちゃキャンキャン吠えられてて、オロオロしてたよ』
と追加情報を伝えると、
『そんな可愛い所見たかったに決まってるじゃん!なんで記録魔法使えないのあんたは!』
とより羨ましがられ拗ねられ、甘いものでなんとか鉾を納めてもらった。
しかし、炎を司る精霊サラマンダーの猛威は、
命の危険を感じる程に危険なので、
改めて気をつけなければと同じく全身漆黒の私は思うのであった。


(text by medamadara)



【日常に潜む魔法】

ふと違和感を感じてペンを走らせていた手を止めると、部屋の中はとっくに薄暗くなっていた。
ぐっと背中を伸ばすと、パキパキと音がする。足元で丸まっていた白い魔獣が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
『ごしゅじん、休まなきゃだめ』
「ごめんってば」
ぷいとそっぽを向いてしまった可愛い使い魔に、魔女は苦笑いをするしかない。集中すると食事や睡眠を放り出してしまう悪癖だけは、百年以上経ってもなかなか直らないものだ。

自己研鑽のために、自室にこもり出して早2ヶ月。机の上や床には、歴史ある魔術書やら古今東西の医学書が所狭しと積まれている。
体調を崩しがちな使い魔のため、寿命が自分より短い相棒のため。それは回り回って自分のためになる。
何せ自分は長命だ。まだ200年は生きるはず。いつかは使い魔も相棒も見送る側である。永い刻の中でとうに慣れ切ったはずの「置いていかれる」その時をなるべく引き伸ばすために、寝食を犠牲にしている。
退屈だから。暇になってしまうから。…寂しくなってしまうから。
そんな感傷を破ったのは、カンカンと鳴る金属音。
「おーい!ごーはーんー!!」
祓魔師のよく通る声が私を呼んでいる。いつもの服の上から白いエプロンを付けて、フライパンとおたまを振り回しているのかしら。
「はあい、いま行くー!」
使い魔と一緒に階段を駆け降りる。大切な仲間と、大切な日常を取りこぼさないように。


(text by HAL)

タイトルとURLをコピーしました