サブストーリー4

【見慣れぬもの】

豊穣の女神マイアの加護の月がやってきた。
人々はさらに活気付き、ファンタジー市や闘技場も多くの人で賑わっている。
というのにだ。最近の魔女ときたらあまり元気がない。いわく、使い魔の調子が良くないというのだ。
彼女の使い魔は風の属性を持つ魔獣で巻き毛の犬の姿をしている。
魔女にとって使い魔は家族も同然だという。
現に先月のファンタジー市にも魔女は姿を現さなかった。
私はというと、包み紙やら、魔眼たちを立てかける道具やらの一切を忘れ、
嗚呼魔女がいないとやはりポンコツなのか…と溜息をつきかぶりを振った。

謎の病の正体は前回突き止めたし、
魔女はご覧の有り様。さて私は何をすれば良いだろうか。
愛銃の手入れでもしようか。
リフルシャッフル侯国では銃と呼ばれるものは
一般的ではないどころか、殆ど流通していないそうだ。
むしろ知られていないといった方が正しいのか。
侯国の住人皆が魔法を使える為もあるのか。
私の故郷では魔法よりももっぱら物理であった。
銃もその一つであり、悪魔祓いに必要な聖別済みの銀の弾や
塩を込めた弾丸といった物で悪魔を撃退していた。
もちろん私が非力な為でもある。
銃は比較的魔力も込めやすく、私にとって扱いやすいのだ。
まぁ必要であれば心臓に杭を打つが。
部品を分解し、手入れをしていく。
手によく馴染んだ私だけの銃だ。
倭国にはヒナワジュウなるものもあるらしい。
なにやら面妖な集団で、リフルシャッフル侯国とは敵対関係にあるそうな。
気にはなるが、そんなの持ってきたら流石のエリーナ嬢も卒倒してしまいそうだな…と思い、手入れを終えた。
そして、しょんぼりの魔女に砂糖たっぷりのココアを作って渡すのだった。

(text by medamadara)


【春一番の大騒動】

ファンタジー市の目玉魔装具店。
知る人ぞ知る私の店は今、謎の緊張感に包まれている。
『…』
並べた目玉の後ろでいつも通り道ゆく人を眺める私の隣には、白い巻き毛の魔獣。行儀よくおすわりをしている犬の鼻には皺が寄っており、時折ふすんと鼻を鳴らして『不機嫌です』と言わんばかりの態度だ。
この大きな犬によく似た魔獣は、数年ほど前に魔女が契約した使い魔である。風の精霊の力を宿す使い魔は、魔女の護衛であり癒しだ。しかし魔女を襲う阿呆はファンタジー市にいないのは承知のはず。おおかた今日は魔女と離れたくない気分なだけなのだろう。
『他のお店を見たいけど、私をひとり店に残していくのは不安』という不本意な意見を述べた魔女は、使い魔に「お店とこの子をよろしくね」と言って頭を撫で、使い魔は任せろと言わんばかりに尻尾を振っていた。これには通りすがる人達もニッコリ。
そんな心温まる出来事から30分以上経過した現在。魔女はまだ戻らず、置いて行かれた上に放置されている使い魔の機嫌は悪くなる一方。店の周辺だけ寒い気さえする。ええい早く戻ってきてくれ。頼む。
『おい、黒いの』
目線だけは決して合わせず、使い魔が話しかけてきた。「黒いの」は私を指す呼び名だ。直接話しかけるなど珍しい。…いや、
わふわの尻尾が地面に容赦なく打ちつけられている。不機嫌は最高潮だ。
『ごしゅじん、迎えにいってくる』
舌足らずの決意を口にした使い魔は、私の返事を待たずにすっくと立ち上がった。一応仕事を放り出すつもりかと諌めてみる
『ぼくを呼べないほど困っているのかもしれない』の一点張りだ。
所詮、ご主人の同居人である私の言う事を聞く訳がないのはわかっているが、光の粒子が使い魔を包み込み出した。どこからか風が吹く。嫌な予感しかしない。
「いや魔女はアレで強いから大丈夫だ、だからその力をしまったらどうかな?」
『う〜〜、ごしゅじんいないとさみしい!』
「もうそれ魔女関係あるか!?いやせめて店から離れてから…っうわ、あぁー!?」
制止もむなしく春の陽気に相応しい風を起こしながら空に舞い上がった魔獣は、あっという間に雲とまぎれて見えなくなった。
私の店の悉くを薙ぎ倒しながら。
「…帰ってきたら覚えてろよ!!」
しっちゃかめっちゃかになった店を前に、私は三下じみた恨み節を青空に向かって吠えるしかなかったのだった。

(text by HAL)

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