サブストーリー3

【呪いの正体、そして】

愛と美の女神の月。そして芽吹きの時。
リフルシャッフル侯国にも、穏やかで暖かな季節がやってきた。
が、頭を抱えていたのはシャッフル王女の侍女エリーナ嬢である。

曰く、未開の地に留まるとかかる病があるそうだ。
そう、私が今悩まされている悪魔に受けた呪いと全く同じ症状だ。
目の痒み、止まらぬ鼻水、肌の痒みエトセトラ…

『やっぱり呪いじゃなくて病じゃん!』

いや、違う。私の呪いは悪魔から直接受けたから、エリーナ嬢のモノとは症状は同じであれ、違うはずだ。

私は外套とボーラーハットを引っ掛け、
馴染みの銃やらクロスやら聖水が入った鞄を手に取ると、工房の外へ足を踏み出そうとした。

『えっ、ちょっと?何処行くの?私もいくよー?』

『悪魔祓い!もとい、病の謎を解きにいく!』

いそいそと準備する魔女を待ち終えると、共に未開の森の深部へ向かう。

私が呪いを受けたのはたしかこっちだったはずだ。

…目が痒い……。
近い。
そこだ!銃声が響き渡る。
魔女の魔法も炸裂する。
『キヒヒ、俺が死んでもお前の呪いは解けないぞ…お前はもう未開の森に足を踏み入れ…』

うるせー。
もう一発、脳天にぶち込むと悪魔はガクッと頭を垂れた。

『しかし何度見ても悪魔祓い(物理)って感じだよね〜』
魔女が嗤う。
『いきなり飛んでくるやつは物理、人に取り憑いてるのはちゃんと聖水とか使いますし。』

ところで、と魔女が口を開く。
『その愛銃だけど、どうやらリフルシャッフル侯国では殆ど見かけない超レアな存在なんだってさ。だから領内で剥身で持ち歩くと、エリーナ嬢がすっ飛んでくるって聞いたよ?』
む、そうなのか。
『私の生業…悪魔祓いには必要不可欠なものだが…銀の弾丸は悪魔に良く効く。となると、領内ではトランクに入れて見えない様携帯せねばな…逆にいえば剥身で持ち歩いていたらエリーナ嬢に会えるって事か?』

『こらー、あんまりエリーナ嬢を困らせる様な事しちゃダメ〜』

などと雑談しながら、
【材料】になった悪魔を皮袋に詰め、さらに奥に進むと、樹齢1000年はあろうかという立派な樹木が聳え立っていた。
悪魔の卵がべっとりとへばりついているし、
よく見ずとも辺りは黄色い呪いの粉で溢れている。

『あー、これは…退治は無理だわ。』
2人して同じ台詞を吐くと、元来た道を戻ってゆく。
道中、魔獣や悪魔が出たが、鼻水ズルズルの私を尻目に魔女がケラケラ嗤いながら倒してくれたおかげで、
材料には困らなかった。
それに、謎の病の正体も突き止めた。

ファンタジー市の時に、未開の森で見たことを、
エリーナ嬢に報告しようとこっそり胸に誓うのだった。



(text by medamadara)





【鬼の居ぬ間の好奇心】

リフルシャッフル侯国を悩ませる謎の病の正体が明らかになった夜。
鼻の下を真っ赤にして眠っているだろう祓魔師を起こさないように
一階の工房まで降りた私は、そっと小ぶりの瓶を取り出した。
ーー謎の病の正体が魔杉の呪いだと判明したのは良い。
祓魔師がバカ正直に呪いを受けたという話も、私と出会う前なら納得できる。
ああ見えて力技で解決するところがあるし。
だとしても、おかしくない?おかしいでしょ、
これを読んでいる人はおかしいと思ってるはず。

だって魔杉が施した一生解けない呪い、内容が明らかに病なんだもの!

ああ、魔女の血が疼く。日がな一日ずうっと書き散らしていたり、暇だと連呼していると思われては困るのだ。
あのおっかない祓魔師をポンコツ…じゃない再起不能に追い込むよくわからないものを徹底的に解き明かして薬を作ったりしたいし、
対抗できる魔法を構築するのもいい。何より楽しい。あの!祓魔師が!再起不能になるなんて楽しすぎる!
テーブルに置いた瓶の中で、黄色い粉が怪しく光る。祓魔師が魔杉と相対した時に真正面から食らっていた粉だ。
叫びながらくしゃみをするという器用な事をしている間に、こっそり採取しておいてよかった。
魔法陣の上に粉をひと匙。そして楕円形のガラスで蓋をして詠唱。
黄色い粉はたちまち一塊になって、ガラスの中で小さな木になった。
もうあの一帯に行く事は絶対にないだろうし、二度とお目にかかれないなら作ればいいじゃない?

「あ、エリーナ嬢にお手紙を書かないと」

正しく病で苦しんでいるエリーナ嬢に宛てて筆を取る。侯国の皆様には変な木を見つけたら【触らず近寄らず回れ右】を徹底してもらおう。あとはしばらく工房に来ない方がいいですよ、呪われるから。
便箋に封蝋を垂らして魔法のスタンプを押す。『精霊のことば』で手紙を届けてくれるようお願いをすると、窓から小さな青い光ーー風の精霊が入ってくる。青い光が手紙の上を旋回すると、あっという間に鳥のかたちになる。そうして手紙の鳥は風の精霊と一緒に、シャフル城の方向へ羽ばたいていった。
風の精霊の導きがあれば、手紙は城のどこかにいるエリーナ嬢のもとへ必ず届くだろう。一仕事を終えた私は、今度こそ疲れた体を休めるべく部屋のベッドに潜り込んだのだった。

そして翌朝、野獣に愛を教えた薔薇の如くテーブルに鎮座する小さな魔杉を見た祓魔師が、お手本のような悲鳴をあげたのは言うまでもない。



(text by HAL)

タイトルとURLをコピーしました